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る。つまり肺内オピオイドがあり、肺疾患に影響し、とくに間質性肺水腫などの肺浮腫の反応を仲介していると考えられる。
また吸入した薬剤がレセプターのある気道、肺胞にどの程度到達するかも知られている。超音波ネブライザーでは、電気流動が通過するときにできる結晶の振動頻度に依存する。結晶は液体の表面で小滴の集合となり、そのサイズは4から10ミクロンである。8ミクロン以上の集合の多くは鼻咽頭に留まる。集合の小滴一つ一つのサイズは直径1から5ミクロンの粒子であり、これは咽頭、気道から正常肺のすべての肺胞レベルに到達できる。よって吸入薬剤の約12%が肺に到達し、残りは蒸発したりそこまでの器官に留まる。実際には計測した吸入量の約9%は肺胞に到達すると考えられている。
よって、われわれの症例でも超音波ネブライザーを用いて吸入されたモルヒネは、患者の残された正常肺胞にその数パーセントが到達でき、肺胞レベルで存在するであろうオピオイドレセプターを介して中枢に作用して、呼吸困難の緩和が行われたと想定する。
4.最近の知見と実鹿
過去の有効であった報告によると、2〜3分で呼吸が楽になり、緊急時医療者を呼んでいる間、家族や自分で吸入をして対処することができる。気道と肺は巨大な表面積を持つので効果が早く、2〜5分以内にリラックスしてくるなどの精神的効果が現れる。また筋肉注射に比べて全身の最高血中濃度は6分の1と低い。最初の肝臓で代謝されるルートをとらないため少量だけが全身作用する。よって全身投与よりも少ない量で効果をもたらすことができる。主体が全身投与で吸入は別の利益として追加使用することができる。また、在宅においても、酸素吸入と同様にセルフケアできやすい。非侵襲的でありかつ比較的安価である。
一方、問題点を指摘する報告によると、末期癌患者の呼吸困難ではCOPDとは違う他の要素が加わる。たとえば、腹水、敗血症、恐怖、不安、発熱、貧血、胸水等が一般的にあり、技術的効果は複雑になる。さらに経口や皮下注射に比較して有効だという相関はいまだはっきりしていない。またベンゾジアゼピンや気管支拡張剤との併用の関係も明確でない。
Dr.Twycrossはモルヒネ吸入のガイドラインとして次のように記している。
1)吸入モルヒネでは全身の生物学的活性が低い(静脈注射の5%)ので、痛みの緩和には用いるべきでない
2)効果はおそらく局所的なものである
3)マスクでなくマウスピースを使う
4)蒸留水4〜5mlで溶解した硫酸モルヒネ20mgを4時間おきで開始する
5)増量は40〜80mg、3〜2時間おき
6)吸入は空気か酸素とともに毎分8l10分間
または症状がほぼ消えるまで
7)大気道におそらくレセプターがあるさらに、量依存性の効果は不明で、それぞれにとって至適な頻度を決めるべきであり、日に1〜2回の使用でもよい。多くはテスト量で維持される。癌性リンパ管症、少量の胸水、大きな肺内腫瘤、肺炎に効果があり、乾性咳への効果は異論があると述べている。
また、St.Christophers HospiceのDr.Robert Dunlopは、1997年4月に呼吸困難緩和に対して経口モルヒネの次に2番目の選択として吸入モルヒネをあげている。また酸素吸入は6番目の選択とし、低酸素でない患者も含め25%以下の効果といっている。
閉塞性拘束性病変の複合したガス交換のできる気道の少ない病期であるため、筆者にも実際に酸素吸入が毎分4l以上になると自覚的効果も酸素飽和度も横這いの印象がある。また患者は安心するが依存しQOLを妨げる。Dr.Twycrossは急な強い呼吸困難の時や活動の前にだけ、5分間酸素吸入するのがよいと述べている。緩和医学における患者自身の生命の力と質を支える基本的姿勢

 

 

 

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